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最高裁判所第一小法廷 平成8年(オ)2292号 判決 1999年6月24日

上告人

X1

外一名

右両名訴訟代理人弁護士

作井康人

被上告人

Y1

外八名

右九名訴訟代理人弁護士

藤本正

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人作井康人の上告理由第一ないし第三について

被相続人が相続開始時に債務を有していた場合における遺留分の額は、被相続人が相続開始時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、これに法定の遺留分の割合を乗じるなどして算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、右のようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し、同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すべきである(最高裁平成五年(オ)第九四七号同八年一一月二六日第三小法廷判決・民集五〇巻一〇号二七四七頁)。原審の適法に確定した事実関係の下においては、被上告人らは、被相続人Aが相続開始時に有した債務を法定相続分に応じて相続したものというべきところ、遺留分算定の基礎となる財産額の確定に当たって右債務の額を控除すべきであるとしても、他方、遺留分侵害額の算定に当たっては被上告人らが相続した債務の額を加算しなければならず、そのようにして算定した遺留分侵害額は、原審認定の遺留分侵害額よりも多額となることが明らかである。したがって、原審認定の遺留分侵害額は、遺留分減殺請求の相手方である上告人らにとって利益でこそあれ、何ら不利益ではないから、論旨は、原判決の結論に影響しない事項の違法をいうことに帰し、採用することができない。

同第五について

被相続人がした贈与が遺留分減殺の対象としての要件を満たす場合には、遺留分権利者の減殺請求により、贈与は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者が取得した権利は右の限度で当然に右遺留分権利者に帰属するに至るものであり(最高裁昭和四〇年(オ)第一〇八四号同四一年七月一四日第一小法廷判決・民集二〇巻六号一一八三頁、最高裁昭和五〇年(オ)第九二〇号同五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁)、受贈者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、それによって、遺留分権利者への権利の帰属が妨げられるものではないと解するのが相当である。けだし、民法は、遺留分減殺によって法的安定が害されることに対し一定の配慮をしながら(一〇三〇条前段、一〇三五条、一〇四二条等)、遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与については、それが減殺請求の何年前にされたものであるかを問わず、減殺の対象となるものとしていること、前記のような占有を継続した受贈者が贈与の目的物を時効取得し、減殺請求によっても受贈者が取得した権利が遺留分権利者に帰属することがないとするならば、遺留分を侵害する贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利者は、取得時効を中断する法的手段のないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となることなどにかんがみると、遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与の受贈者は、減殺請求がされれば、贈与から減殺請求までに時効期間が経過したとしても、自己が取得した権利が遺留分を侵害する限度で遺留分権利者に帰属することを容認すべきであるとするのが、民法の趣旨であると解されるからである。

以上と同旨に帰する原審の判断は、是認するに足り、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎)

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